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彼女は今、パソコンの前で駄々をこねている。それは、ただの餓鬼の姿。

彼女は、今までずっと欲が薄い方だと言われていた。
弟と何かを取り合ったこともない。お菓子も、おもちゃも、漫画も、「欲しい方」が手に入らなくても、仕方ないのだと思った。悔しいとか悲しいとか、そういう感覚は無かった。だから、彼女自身も自分は欲とか執着に縁が薄いのだと思っていた。

だが、彼女は今それが勘違いであったことをはっきりと自覚している。
全てが欲しい。
彼女の入学した高校には、およそ四十の部活、愛好会がある。その中で彼女は演劇部と文芸部に強く惹かれた。
中学校のころにその楽しさを知った演劇。しかし、その高校の演劇部はかなり強い。だから、入部は諦めるつもりで入学したはずだったのに。
見学で部員の快活さに惹かれた文芸部。元々、文章をいじるのが好きだったから、内容自体にも惹かれた。しかし、なんせ地味である。活動も不定期で、お菓子を食べたりしていて、正直言って「やりがい」を感じるには軽いのかもしれない。
兼部は可能。しかし、演劇部の活動、経歴を考えると、文芸部が幽霊部員になるような気がしてならない。

それと同時に、彼女には続けたいものがあった。それは、日本舞踊である。子供の部が終わり、大人の部に突入するこの時期。止めたくはない。そう思っていた。

演劇部は週に六日。一日か二日、文芸部に行くことが出来れば、残りの一日に日舞を持ってくれば、と思ってしまう。
しかし、それは無理な話だろう。彼女の高校の演劇部のメインはミュージカル。演技だけでなく、歌、ダンス、効率良いセット、全てが必要である。元々、歌えない、踊れない、そういう彼女がここの演劇部でやっていくために必要なのは多くの時間。他の物に裂いたりはできないはずだ。
演技力で補うと言っても、プロまでも輩出するこの学校では、意味をなすほどの力はない。
日舞にしたって、先生の都合というものがある。日曜日は主に発表会の日だ。それなりの立場である以上、先生はそちらに行かなければならないだろう。

「幽霊部員でも良いよ」
と、見学のときに文芸部の人たちは言った。しかし、私は彼女等に惹かれ、そこに憧れたのに、幽霊なら、席も置かないほうがましかもしれない。
「文芸?あぁ、掛け持ちOK」
と、演劇部の人たちは言った。しかし、それは「文芸は原稿を出すだけ、普段は幽霊」を前提にして話されていた。
もし兼部となったら、少なくとも週に一日か二日、文芸に行きたいなどと私が考えているとは知る由もなかっただろう。

正直言って、演劇部には「演劇が出来る」という要素意外、全くポイントがないのは確かだ。
先輩とは、あまり、そりが合わなさそうな気がした。先生にも、何も感じることは出来なかった。名門というプライドは、嫌いだ。
それでも彼女は演劇をやりたかった。スポットライトは麻薬だとはよく言ったものである。
一方、文芸はその全く逆である。
快活な先輩。先生は、ほおっておいてくれるらしい。こじんまりとした部活独特の温かさがあった。日本舞踊だって、やり放題だろう。
しかし、活動予定は「気が向いたらなんかやる」
必要としてくれているのは、どちらかといえばこちらだろうか。部員が不足していたから。

彼女は今、全部が欲しいと思っている。演劇も、文芸も、日本舞踊も。
欲しい欲しいと思っても手に入れられないことはわかっている。それでも欲しいのだ。
一歩も動けない、ただの駄々っ子。
諦めなくてはならないのに、諦められない。

「良い子ね。弟にちゃんと譲ってあげるんだ」
「欲ないのね」
親戚から言われ続けた言葉。違う。彼女はとてもとても欲深い女なのだ。ただ、服や靴や鞄。普通の子が欲しがるものを欲しがらなかっただけなのだ。
全てが欲しい。全てが欲しい。全てが欲しくてたまらない。
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